楽園の炎
第五章
その晩、朱夏は眠れぬまま、寝台の上で月明かりに例の短剣を翳していた。
---葵は、ナスル姫との結婚の話を、聞いたんだろうか。話してくれるだろうか。話されたところで、あたしはどうすれば・・・・・・。あの首飾りの意味は? あたしは、葵をどう想ってるんだろう---
氷のように透き通った短剣は、ぐるぐると頭の中を巡る疑問を溶かすように、月明かりを反射して鋭く光る。
---ああもぅっ! こんなことで悩むなんて!---
がばっと起き上がり、鎖を首に回して、短剣をかけてみる。
そういえば、ためしにつけてみもしなかったな、と思い、鎖骨の辺りから下がる短剣を確かめていると、不意に扉の前に、僅かな人の気配を感じた。
「!」
朱夏が枕元に置いた剣に手を伸ばすのとほぼ同時に、扉が開く。
朱夏は息を呑んだ。
長年の訓練のおかげで、朱夏は通常なら、もうちょっと離れた場所から、不審者に気づくはずである。
部屋のすぐ前に来るまで気づけないことなど、今までなかった。
しかも、扉が開いた今でさえ、気配は僅かだ。
緊張した朱夏だが、音無く部屋に滑り込んだ侵入者は、朱夏が誰何の声を上げる前に、頭上から降ってきた大量の飼い葉に埋もれてしまった。
「うわっ! ぺっぺっ。な、何だっ? げほっ」
飼い葉の海でもがきながら、侵入者が声を上げる。
その声に、え、と朱夏の目が見開かれた。
---葵は、ナスル姫との結婚の話を、聞いたんだろうか。話してくれるだろうか。話されたところで、あたしはどうすれば・・・・・・。あの首飾りの意味は? あたしは、葵をどう想ってるんだろう---
氷のように透き通った短剣は、ぐるぐると頭の中を巡る疑問を溶かすように、月明かりを反射して鋭く光る。
---ああもぅっ! こんなことで悩むなんて!---
がばっと起き上がり、鎖を首に回して、短剣をかけてみる。
そういえば、ためしにつけてみもしなかったな、と思い、鎖骨の辺りから下がる短剣を確かめていると、不意に扉の前に、僅かな人の気配を感じた。
「!」
朱夏が枕元に置いた剣に手を伸ばすのとほぼ同時に、扉が開く。
朱夏は息を呑んだ。
長年の訓練のおかげで、朱夏は通常なら、もうちょっと離れた場所から、不審者に気づくはずである。
部屋のすぐ前に来るまで気づけないことなど、今までなかった。
しかも、扉が開いた今でさえ、気配は僅かだ。
緊張した朱夏だが、音無く部屋に滑り込んだ侵入者は、朱夏が誰何の声を上げる前に、頭上から降ってきた大量の飼い葉に埋もれてしまった。
「うわっ! ぺっぺっ。な、何だっ? げほっ」
飼い葉の海でもがきながら、侵入者が声を上げる。
その声に、え、と朱夏の目が見開かれた。