楽園の炎
勢い良く飼い葉の中から顔を出し、頭を振って葉っぱを飛ばしているのは、最近よく会う人物だ。

「ユウ? 何やって・・・・・・。どうしたのよ」

寝台から飛び降りて駆け寄る朱夏に、ユウは飼い葉にまみれたまま、にこりと笑った。

「あ、やっぱこの部屋であってた。良かった」

立ち上がって身体を払うユウに、朱夏は怪訝な顔を向ける。

「他国の商人が、こんな夜中に王宮内に入り込むなんて。明日にでも、憂杏に言伝頼めばよかったのに。大体、どうやって入ったの。警備はそれなりに、厳しいはずよ」

「ま、かくれんぼは得意だからね。ちょっと迷ったり、当たりを付けた部屋が倉庫だったりして、少々時間を食ったが、無事にここまで辿り着けた。でも最後の最後に、まさか部屋の中にこんな罠が仕掛けてあるとはね。全く、危険を顧みず、愛しい姫君の元に馳せ参じたら、飼い葉にまみれてお縄なんて、洒落にならんぜ」

結婚や恋愛の話題に敏感になってしまっている朱夏は、さらりと言われたユウの言葉に、どきんとしてしまう。

---ま、まさか、夜這い・・・・・・?---

自然と強張ってしまった朱夏に気づいたのか、ユウはぽん、と優しく朱夏の頭に手を置いた。

「何かあったの? 元気ないね」

頭を撫でるユウの手が、もらった短剣と同じように、朱夏の心を溶かしていく。
精神的に、この会って間もないような商人に頼ってしまいそうな自分に戸惑いつつ、朱夏はじっとユウを見つめた。

ふとユウの目が、朱夏の胸元に落ちる。
朱夏の頭にあったユウの手が、そっと朱夏の胸元に触れた。

「これは・・・・・・」
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