楽園の炎
朱夏は傷口を綺麗に洗い流すと、瓶に突っ込んだ指でミードを掬い、葵の傷口に擦りつけた。

「うわっ! ちょっと朱夏っ。何してんの」

「消毒よ。蜂蜜は、消毒に使えるはずだもの」

『はず』というのが、いささか心許ないが、朱夏は躊躇いもなく葵の足にミードを擦りつけていく。

「蜂蜜はそうかもしれないけど・・・・・・。ミードもなの?」

不安になって聞く葵に、朱夏はちょっと首を傾げた。
少し考えていたが、やがてにこりと笑うと、視線を逸らす。

「いいじゃない。ミードだって、元は蜂蜜なんだし。お酒だって、消毒に使うんだから、効くはずよ。そう思うでしょ」

結局朱夏に押し切られ、葵の傷口には、大量のミードが塗り込まれた。
その後、二人でミードを一瓶空けたのは、言うまでもない。

なんだかんだ言って、この二人は非常に仲が良かった。
稽古では、葵の弱さに時折キレて逃げ出してしまう朱夏だが、それでも葵は、毎回泣きながらも朱夏を探し回り、朱夏はそんな葵を見ると、すぐに姿を現す。
獣のように素早い朱夏の後を、葵が必死になって追いかける姿は、この宮殿では、いつもの光景であった。
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