楽園の炎
その場に平伏しそうな勢いの朱夏に、やっとトゥーラ皇后は微笑みかけた。

「ああ、よろしいのよ。それに、この国に来るまでも、散々脅されてきたのでしょ? 不安でしょうし、無理もありませんわ」

剣を抱きしめるように抱えて小さくなっていた朱夏の前に、良い香りの立ち上るカップを置く。

「でも、武器を曝しておくのは、あまり良くないかもしれませんね。昨日の時点で、朱夏姫様が武官であったことは知れてしまったわけですし。彼(か)の者は馬鹿にしておりましたので、その印象のまま弱く見せておいたほうが、良いかもしれませんよ」

ぽかんとしている朱夏に、にこりと微笑む。
そして、朱夏の抱いている剣に視線を注いだ。

「見る者が見れば、その剣一つであなたの力量が知れるというもの。それは、長年使用してきた感がありますわ。・・・・・・あなたが使ってきたのでしょ?」

こくん、と頷く。

「わたくしでも、それだけで、朱夏姫様がそれなりに剣を使えると思います。まして彼の者は、軍の長官の地位にある者です。戦に関することにかけては、人並み以上です」

「・・・・・・」

黙ってしまった朱夏に、トゥーラ皇后はお茶を勧めた。
朱夏は握りしめていた剣を脇に置き、いただきます、と言ってカップを取った。
甘い香りが、緊張で固まっていた身体をほぐしていく。
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