楽園の炎
「うん。そんなに深くは、斬れてないよ。でも女の子なんだから、気をつけなきゃね」

至近距離から微笑まれ、朱夏は最早、心臓が胸を突き破らんばかりに高鳴り、顔からは火が噴き出しそうなほど、頬が熱くなる。
合わせて、初めて‘女の子’扱いされたことに、こそばゆいような感じもする。

兵士からは、当然女性扱いされていないし、葵でさえ、このようにストレートに、朱夏を女性扱いしたことはない。
幼い頃よりやんちゃ故、『女のくせに』のようなことは言われてきたが、小言ではなく気遣われたのは初めてだ。
嬉しいといえば嬉しいのだが、恥ずかしくもある。

まして今は、先程胸元に口付けされた直後なのだ。
ユウにその気はなくても、行為自体は、立派な口付け---そこまで考えて、朱夏はまた、たまらなく恥ずかしくなった。

「朱夏。どうした? やっぱ、何か元気ない?」

慣れないことの連続で、動けないでいる朱夏に、ユウが少し心配そうな顔になって言った。
初めに問われたことと同じ言葉に、朱夏は葵のことを思い出すことで、ようやく冷静さを取り戻した。

「んー、何でもない。ちょっと、びっくりしただけ・・・・・・」

笑顔を作り、顔を上げる。
じっと見つめる漆黒の瞳から逃れるように、朱夏はユウの肩についていた飼い葉の屑を払った。

「今日の罠が、木槌じゃなくて良かったわね。昨日までは、木槌が落ちてくる罠を仕掛けてたのよ。飼い葉も強烈だったと思うけど」

しばらく朱夏を見つめていたユウは、ふ、と笑うと、部屋の扉の前に山を作っている飼い葉に目をやった。
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