楽園の炎
「ふーん。じゃ、剣を打ち合わせてる間に、ときめいたのかしら」

「いやぁ、夕星様と手合わせするようになったのは、正式に求婚されてから・・・・・・ですよ」

言いながら、朱夏は赤くなった。
すかさずニオベ姫が反応する。

「ね、求婚って? 夕星おじちゃま、何て仰ったの?」

わくわく、というように、朱夏の膝に手をついて、ずいっと顔を近づける。
こういう話に食い付くのは、やはり女の子だ。

「えっと、何だったかな・・・・・・。あ、普通でしたよ」

考えながら、朱夏は当時の状況を思い出した。
あのときは、夕星の素性がわかってすぐだった。

処刑されるぎりぎりで素性が明かされ、そのまま求婚・・・・・・。
考えてみれば、何と激動なのか。

---あんだけ一気に事態が動けば、そりゃあ魂が抜けたようになっちゃうわね---

つくづく、事態が好転して良かったと思う。
しみじみと当時のことを噛みしめていると、ニオベ姫が朱夏の顔の前で手を振った。

「どうしたの? 朱夏お姉ちゃま?」

はた、と気づけば、皇后も不思議そうに朱夏を見ている。
朱夏は、ふふふ、と笑って、ニオベ姫の頭を撫でた。

「まぁ、いろいろあったんです。ちょっと、普通じゃない出会いでしたね」

じっと朱夏を見つめていたニオベ姫だが、小さな手を己の頬に当て、ふぅ、と息をつく。

「そうね。普通に会っても、ときめかないわよね」

いや、そういうことじゃないんだけど、と思いながらも、一人で納得しているニオベ姫には、余計なことは言わないでおこうと、朱夏は決めた。
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