楽園の炎
「ナスル様は、こうやって縫い物をしててさ、その横で、憂杏が子供をあやして」

「やだもう! 朱夏ったら!」

今度はナスル姫が赤くなって、朱夏の肩をばしんと叩いた。

「子供だなんて、気が早いわよぅ。うふふ、でもそうね。わたくしも早く、憂杏の子供が欲しいわぁ」

照れているわりには、なかなか凄いことを言う。
そうだ、と朱夏は、机の上に腕を置いて、乗り出した。

「そういえばナスル様。結局憂杏とのご結婚は、どうなったんです? 皇帝陛下とお話したのでしょう?」

朱夏が聞いた途端、ナスル姫は口を尖らせて、拗ねたように頬杖をついた。

「どうもこうも。父上も、わたくしの状況と憂杏の人柄を考えて、前向きに考えてくださってるけど。あっさりとは認めてくださらないわ。悩んでらっしゃる」

「まぁ・・・・・・そうでしょうねぇ」

あのアリンダ皇子を見れば、生半可な者では、とてもナスル姫を守れないと思うだろう。
その点を考えれば、憂杏に難点はないはずだ。

見るからに強そうだし、事実、それなりの力もある。
王侯貴族の前に出ても、恥ずかしくないほどの礼儀も身についている。

が、やはり彼は、商人なのだ。

「それに、やっぱりナスル様のことも、心配ですわよ。お姫様育ちのかたが、いきなり野に下るのですから」

憂杏自体の身分どうこうよりも、むしろそれを一番心配しているのではないか。
朱夏はまじまじと、ナスル姫を観察した。

「あたしからすれば、むしろ前より生き生きしてるように見えるけど」
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