楽園の炎
「うふふ。やっぱり? そりゃ、大好きな憂杏と一緒にいられるんだもの。それにね、わたくし、この城でこんなに周りを気にせず安心していられるの、初めてかも」

にこ、と笑うナスル姫は、ちら、とニオベ姫を見た後、耳打ちするように朱夏に顔を寄せた。

「アリンダ様に、会ったでしょ?」

朱夏は黙って頷いた。

「どうだった? 何か、されなかった?」

「皇帝陛下もいらっしゃったし、重臣皆の前だったから。ユウもいてくれたし。ん~でも、軽く侮辱されましたね。あたしも、葵も」

はあぁ、とナスル姫が、大きくため息をついて頭を抱えた。

「全く。侮辱するなんてことも以ての外だけど、そういうことを、恥ずかしげもなく重臣たちの前でするのが、また信じられない。あのかたの、頭の悪さを物語ってるわ」

つくづく、アリンダ皇子の評価は低いなぁ、と思いつつ、朱夏は部屋の中を見渡した。
兵舎に程近いだけに、この小宮の前には、広い訓練場が広がっている。
何かあれば、即兵士たちが飛び込んで来られるだろう。

しばらくぼんやりと訓練場を行き来する兵士らを眺めていた朱夏の目が、ふと向こうから歩いてくる二人連れを捕らえた。

「あ、ユウ。葵も一緒にいるんだ」

朱夏の呟きに顔を上げたナスル姫は、ひょいと訓練場のほうを見ると、立ち上がって窓辺に寄った。
ニオベ姫が気づき、ててて、とナスル姫の傍に走り寄る。
夕星を認め、ニオベ姫は身体を乗り出して、ぶんぶんと手を振った。
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