楽園の炎
「ゆーづつおじちゃまぁ~」

よく通るニオベ姫の声に、夕星は軽く手を挙げ、こちらに歩いてくる。
後ろでは、憂杏が、ぶは、と吹き出していた。

「何だニオベ。お前、朱夏のところに入り浸っているそうだな」

テラスからそのまま部屋に入りながら、夕星がぐりぐりとニオベ姫の頭を撫でる。
ニオベ姫は、しばらくにこにこと夕星を見上げていたが、はっと気づいたように、びしっと小さな指を夕星に突きつけた。

「おじちゃまっ! 朱夏お姉ちゃまを放ったらかしてちゃ、駄目じゃない! お姉ちゃま、寂しがってらしたわよ!」

きょとんとする夕星をそのままに、ニオベ姫は、がしっと朱夏に抱きついた。

「朱夏お姉ちゃまを悲しませるおじちゃまなんて、嫌いなんだから」

朱夏に抱きついたまま、ぎっと夕星を睨むニオベ姫に、皆呆気に取られる。
しばしの沈黙の後、夕星はゆっくりと視線をニオベ姫から朱夏に移し、次の瞬間には大股で朱夏との距離を詰めた。
驚く間もなく、朱夏は夕星の腕の中に。

「何だ何だ。そんなに寂しかったのか。俺だって、何度忍んでいこうと思ったことか。でも自分で朱夏の身辺警護を強化してしまったからなぁ。セドナの目も光ってるし、はっきり言って、俺のほうが寂しかったんだぜ」

「ちょーっ! もうっ何言ってんのよっ!」

ぎゅうっと抱きしめられて、朱夏は少々パニックになりながら、夕星の腕の中でばたばたと暴れた。
朱夏の腰の位置では、ニオベ姫が驚いたように見上げている。
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