楽園の炎
「いいじゃねぇか。十歳ぐらいしか離れてないし、十分許容範囲だろ? 俺と朱夏だって、六つ離れてるんだから」

「ナスル様は、その倍以上だしね」

「うももも~うっ! 朱夏お姉ちゃままでぇ~っ」

ニオベ姫が泣き出しそうになったので、慌てて朱夏は、屈んでよしよしとニオベ姫の頭を撫でた。
葵は困ったように苦笑いすると、朱夏と同じようにニオベ姫の前に屈んで、目線を合わせた。

「何だか不快な思いをさせてしまったようですね。すみません。しばらくお父上にご厄介になりますので、顔を合わせることも多くなるかと思いますが、仲良くしていただけると有り難いです」

「あああっ謝ることなんてないのよっ! あ、あたくしのほうこそ、びっくりしちゃってごめんなさい。あっあのっ、しゅ、朱夏お姉ちゃまから、お話は聞いてるわ。あのっあたくしとも、遊んでくださいね」

間近で話しかけられ、ニオベ姫はわたわたと慣れない言葉を紡ぐ。
そんなニオベ姫を微笑ましく眺めていた朱夏の肩を、夕星がぽんと叩いた。

「城の中は、大体見たのか?」

「あ、ううん。まだ全然。そういえば、外に出ることもそうないわ。部屋に籠もって、レダとかセドナさんとかから、話を聞くだけ」

「朱夏とも思えない時間の過ごし方だな」

再びニオベ姫と遊んでいた憂杏が、笑いながら突っ込む。

「じゃあ、今かくれんぼでもしたら、僕が勝てるね」

葵は日々、皇太子や夕星の仕事を手伝っているため、城の中の地理にも、随分明るくなったようだ。
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