楽園の炎
憂杏の背中に登っていたニオベ姫が、かくれんぼという言葉に反応した。

「まあっ。葵様、かくれんぼとかなさるの?」

わくわく、というように、憂杏の肩越しに言う。

「じゃ、あたくしともしてくださいよ」

「う~ん、ニオベ姫様とやったら、さすがに勝てないなぁ。お小さいし、それこそお城の隅々まで知っているでしょう」

「じゃあ、かけっことか」

「それならいいですよ」

やった、と相変わらず憂杏の背中で喜ぶニオベ姫に、夕星が、こら、と声をかける。

「葵王は、ニオベと遊ぶために来たんじゃないぞ。あんまり引っ張り回すなよ」

「おじちゃまだって、ずっとあたくしと遊んでたじゃない」

ニオベ姫の反撃に、夕星は頭を掻いた。
朱夏はそんな夕星を、若干胡乱な目で見つめる。

「宰相が、姪と遊び回ってていいの?」

あまり人のことを言えた義理ではないのだが、朱夏は正論を口にした。
夕星は、軽く肩を竦める。

「やることは、ちゃんとやってたぜ。仕事なんて、要領だ。要領よくやれば、ニオベと遊ぶ時間ぐらい、いくらでも捻出できるさ」

「お前の性格からいくと、捻出するのは仕事の時間のほうで、遊びがメインのように思うがな」

「いつも言ってるだろ。遊びの中にも、学ぶべきことはあるのさ」

憂杏の突っ込みにも、夕星はしゃあしゃあと言ってのける。

「さて、じゃあ一緒に散歩するか? 憂杏も、ナスルと缶詰状態だろ。気晴らしに、城を案内してやるよ」

そう言って夕星は、皆を小宮から連れ出した。
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