楽園の炎
「憂杏おじちゃま、あっちが中央宮よ。おじちゃまたちは前の晩餐会にいらっしゃらなかったし、知らないでしょ?」

憂杏に背負われたニオベ姫が、歩いている回廊から見える建物を指差して言う。

「でね、あっちに父上とかあたくしのお部屋とかがあってね。おじいちゃまは、その向こう」

小さい子ならではの要領を得ない説明に、憂杏は苦笑いを浮かべながらも、うんうんと相手をする。

「ほんとに憂杏は、子供が好きねぇ」

朱夏が、ニオベ姫を背負って歩く憂杏を見ながら言った。

「うん。まぁ、市にいたら子供と接する機会も多いのかもしれないけど。見てくれはごついのに、何だかんだいって子供が集まってくるのは、人柄だろうなぁ」

葵も感心したように言う。

「ちょっと羨ましい。昔からさ、憂杏は凄いなって、ずっと思ってきた。商人だから、好きなところに行けて、いろんな世界を見られるからだって思ってたけど、そうじゃないよね」

言いながら、葵の目は先を歩く夕星を見る。

「知りたいことがあったら、どんどん出て行くべきだよね。人の上に立つには、小さい世界で燻ってちゃいけない。自国のことだけじゃない、世界を見ないと」

隣で言う葵を、朱夏は、じっと見つめた。
そして、ふ、と息を吐く。

「葵もさ、変わったよね。何て言うか、威厳が出てきたっていうか。おいそれと近づけないっていうか。ちょっと、寂しいな」

あれ、と葵は、意外そうに朱夏を覗き込んだ。
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