楽園の炎
あのまま過ごしていたら、今頃どうしていただろう。
朱夏はアルファルドから出ることもなく、おそらく葵もないだろう。
ナスル姫がやってきたとしても、ほぼ強制的に葵はナスル姫と結婚し、せいぜいククルカン皇帝に挨拶に行くために、束の間ククルカンに足を踏み入れるか。

もしかしたら、そうなっていたら、ククルカン皇帝のほうが、アルファルドに出向いてくるかもしれない。
皇帝陛下はアルファルドがお好きだし、葵自身もお気に入りだ。

ナスル姫がアルファルドに輿入れ、となると、式はアルファルドでしても、おかしくはない。
宗主国とはいえ、ナスル姫がアルファルドに入るからだ。
そうなると、葵はそれこそ、アルファルドから一歩も出ないで過ごすことになる。

「う~ん、それでも、アルファルドはちゃんと成り立っていけるのかなぁ。まぁ、独立国ではないからな。世間知らずの国でも、宗主国がしっかりしてるから、なんとかなるものなのかもね」

「情けないね、ちょっと」

今とは全く違う、もしもの未来を考えていた二人は、改めて自国の弱さを思った。
でも、その弱さのお陰で、無用な殺戮が起こることなく、ククルカンの支配下に入ったのだ。

「本当に、皇帝陛下が良いかたで良かった」

「そうだね。皇帝陛下も皇太子様も、凄く熱心にいろいろ教えてくれる。僕がナスル姫様と結婚してたら、それこそ本当に何事もなく、平和に日々が過ぎただろうね」

朱夏はぼんやりと、夕星の背中を眺めた。
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