楽園の炎
「そう考えたらさ、ユウが全てを変えたよね」

「え?」

「だって、ナスル様が来ただけだったら、特に何も変わらなかったわけじゃない。多分、だけどさ。葵はアルファルドでナスル様と結婚して、あたしは葵のお付き武官のまま・・・・・・」

ふと朱夏は、己の運命を思った。
もし夕星に出会わなかったら、どうなっていたのだろう。

出会っていたとしても、あの夜、葵から夕星が助けてくれなかったら、きっと朱夏は、葵のものになっていた。
そして、夕星が捕縛されることもなく、となれば、正体がわかることもなく。

夕星は商人として、そのうち旅立つか、それとも普通に皇子に戻って国に帰るか。
どちらにしても、もう朱夏と会うこともなかったのではないか。

会うことがあるとすれば、数年後か、それこそナスル姫と葵の結婚式辺りか。
もしかすると、すでに葵の側室として、会うことになったかもしれない。

「・・・・・・何考えてるのさ」

葵が前を向いたまま、視線だけを朱夏に向けて言った。
朱夏は黙って、葵の瞳を見る。

「・・・・・・僕はさぁ・・・・・・」

しばしの沈黙の後、葵が呟くように口を開いた。

「結局、一緒だったと思うんだよね。確かに、夕星様の存在が、淡々と進むはずだった運命を激流に変えたようなもんだけど。もし、僕がナスル姫様と結婚して、朱夏も側室にしていたとしても、きっと朱夏は僕と上手くいかないだろうし、ナスル姫様だって、穏やかじゃないだろう。で、結局憂杏に惹かれるよ。憂杏とは、アルファルドにいれば、会う機会はいくらでもあるし。何かさ、そうなったら、誰も幸せにならないよ」
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