楽園の炎
「ナスル姫も、朱夏も、愛する人と一緒になることが決まって、嬉しい反面、僕が何も手に入れられなかったから、素直に喜べないんだろ?」

「・・・・・・だって、やっぱり葵は、大事だもの・・・・・・」

大事な人には、幸せになって欲しい。
その気持ちに、嘘はない。

「僕は、朱夏がそう言ってくれると、凄く安心するんだよね。事実、昔から朱夏は、ずっと僕を守ってくれたし。いつかは僕が、朱夏を守るって思ってたけど、う~ん、それって、憧れだったのかな。簡単に、単純に、僕は男だから、いつかは、と思ってたけど、実際はさ、僕に守られるような弱い朱夏は、僕は求めてないっていうか」

「・・・・・・よく考えたら、傷つくようなこと、平気で言ってるわね」

「強い朱夏にずっと憧れてたから、朱夏が弱くなったら、変に冷めるかも。夕星様を相手にしてる朱夏には、実はちょっと、違和感があるんだよね。強い朱夏ってのが、僕の中で強烈に出来上がってるからさ。夕星様が地下牢にいたとき、朱夏、凄くやつれたじゃない。びっくりしたよ。あの強い朱夏が、こうも弱くなるなんてって」

「それは憂杏にも言われたけど」

葵は首を振った。

「違うよ。あんな朱夏、そりゃ誰でも驚くよ。でも、僕の場合は、何というか、理想が崩れたんだ。僕の好きな、強い朱夏を崩した夕星様を憎んだんだな」

だから、『強い朱夏』を取り戻すために、元凶である夕星を消し去ろうとしたのか。

「何で朱夏と夕星様が仲良くしてても、何とも思わないのかなって、ずっと不思議だった。夕星様は、ただの親愛だったからだって言ってたし、僕もそのときは、それで納得したんだ。でも、そうじゃない。夕星様と一緒にいる朱夏は、僕の憧れだった朱夏じゃないんだよ」
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