楽園の炎
「弱いから?」

どこか不満そうな朱夏に、葵は、ふふっと笑った。

「うん・・・・・・。というより、女の子らしいっていうのかな」

「葵は、あたしをちゃんと女の子として見てたって言ったじゃない」

矛盾してる、と憤慨する朱夏の頭を撫で、葵は困ったように首を傾げた。

「そうじゃなくて・・・・・・。何て言うんだろう。僕の知らない、普通の女の子なんだ。夕星様は、朱夏よりもだんちで強いだろ。ククルカンの兵士たちもそうだ。でも昔のアルファルドでの朱夏は、女の子だけど、誰より強い。そういう朱夏が好きだったのさ」

状況が変われば、それによって発揮できる力も変わるわけで、当然朱夏より強い人間など、世界にはいくらでもいる。

当たり前のことなのだが、今まで全くそういう者に出会うことなく、強い朱夏に憧れ続けた葵としては、理想と現実の切り離しが難しかったのかもしれない。

「それにね、もし僕が朱夏を側室にしてても、きっと、僕のものになった朱夏は、僕の好きな朱夏じゃない・・・・・・。これは、前にも言ったよね」

こくん、と朱夏は頷いた。

「やっぱりさ、無理矢理したことは、良くない方向にしか、行かないんだよ」

そうかもしれない。
でも何となく、同意するのも憚られ、朱夏は黙り込む。
重くなってしまった空気を一掃するように、葵は大きく伸びをした。
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