楽園の炎
「今でも朱夏が僕を大事だって言ってくれるように、やっぱり僕も、朱夏のことは好きだよ。だから、朱夏が幸せになるのは、嬉しいことだ。僕だって、何も手に入らなかったわけじゃないよ。皇太子様と仲良くなれたことも、ククルカンに留学できたのも、夕星様のお陰だ。う~ん、そう考えると、つくづく夕星様は凄いなぁ」

しげしげと前方の夕星を見る葵は、心底感心したように息をついた。
そして、ふと視点を変え、夕星の少し後ろを並んで歩く憂杏とナスル姫を見る。

「こうやって見ると、別に変じゃないよね。変どころか、凄く自然な夫婦に見える」

「そうね。それにしても、ニオベ様はすっかり憂杏に懐いちゃってるわねぇ」

ニオベ姫を負ぶっている憂杏と、その彼に寄り添っているナスル姫は、そこだけが何か、普通の家族のようだ。
何となく、朱夏と夕星よりも、しっくりきているように思う。

ぼんやり眺めていると、つい、とニオベ姫が振り向いた。
朱夏を認め、にこにこと笑って手を振る。

「あはは。可愛いなぁ。子供って、こんなに可愛いのね」

朱夏も笑いながら手を振り返す。
ニオベ姫の視線が、朱夏の横に滑った。

葵を見た、と思った瞬間、ニオベ姫は少し目を見開き、微妙な表情になって、不自然に視線を彷徨わせる。

どうしたのだろう、と思っていると、そんなことには気づかぬように、葵がにこりと笑って軽く手を振った。
途端にニオベ姫は、ぱっと笑顔になって、でもどこかぎこちなく、ささっと手を振ると、そそくさと前を向いた。

「うん、確かにニオベ姫様は可愛いね。朱夏も、子供が欲しくなった?」

「そうねぇ・・・・・・て、何を言わすのよっ」

赤くなって、葵の背をばしんと叩いた朱夏は、ニオベ姫に対する疑問など、忘れてしまっていた。
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