楽園の炎
「あらあら。でも、炎駒様もククルカン属国の宰相ですもの。朱夏姫様だって、すでにククルカン皇家の者ですよ。皇家専属のものを使っても、何ら不都合ございませんよ」

「そうかもしれないけど・・・・・・。う~ん、そうねぇ」

言いながら、朱夏は書状をセドナに渡した。
目で、読んでみて、と促す。

セドナは軽く頷き、とりあえずその場を離れた。

「苺鈴さん、ほんとにありがとう。わざわざこれのために、お部屋まで来てくれたの?」

セドナがいなくなってから、朱夏は苺鈴に向き直った。
苺鈴は、いえ、と呟いた後、少し迷う素振りを見せ、やがて袂から小さな貝の入れ物を出した。

「東方の軟膏です。擦り傷や切り傷に、良く効きますわ」

朱夏の手首に巻かれた布や、ところどころに残る傷跡のために、用意してくれたのだろう。

「ありがとう。・・・・・・苺鈴さんたちにも、知れ渡ってるの?」

合わさった貝をずらすと、少し黄みがかった塗り薬が現れる。
東方の薬は良く効くと、憂杏も言っていた。

「知れ渡っている、といいますか。こう申し上げては何ですが、アリンダ皇子様の蛮行は、ククルカン国民で知らぬ者はいないほどですよ」

ひえっと朱夏は、思わず軟膏を取り落とす。
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