楽園の炎
「町に繰り出しては、見目良い娘を手籠めにしたりするようですし」

「そ、そんなことして、親とか何も言わないの?」

戦のときや、夕星に関することだけで、そういうことをするのではないようだ。
根っからの女好きということか。

「言おうにも、相手は第二皇子ですよ。抗議などしようものなら、即座に斬り捨てられます」

わたくしのような者には、有り難い存在ではありますが、と言い、苺鈴は含み笑いをした。

「わざわざ手練手管を弄しなくても、簡単に閨に引き込んでくれますからね」

城への渡りをつけやすい、と笑う苺鈴に、朱夏は思わず感心する。

「とにかく、朱夏姫様への暴行事件は、民の心をますます皇子から離すに至っただけですわ。聞けば、重臣の不満も頂点のようですし、これに民の怒りも加われば、いかなアリンダ皇子様とて、ただでは済みますまい」

「・・・・・・凄いね、苺鈴さん。商人のほうが、そういう大きな動きに敏感みたい」

当事者である朱夏は、セドナや葵に聞くことしか知らない。
もっとも当事者だからこそ、周りが気を遣って事件から遠ざけているのかもしれないが。

「憂杏も、昔からいろんなこと知ってたわ」

考えてみれば、誰より情報を掴むのが早いのは、憂杏だったかもしれない。

「ああ、ナスル姫様のお相手ですね。そうですね・・・・・・案外外からのほうが、全体が見えるものなのかもしれませんね。そうそう、ナスル姫様にも、お祝いを述べなければ」

明日正式に、商品を見せる場を設けてもらえるだろうということを伝え、苺鈴は朱夏の部屋を辞した。
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