楽園の炎
「まぁ。お綺麗ですわ」

「着てしまえば、なるほど、様(さま)になりますわね。さすが衣装係ですわ」

鏡の中の自分に、朱夏は茫然となった。
ドレスを着ただけなので、自分では似合っているとも思えないのだ。

「・・・・・・こ、こんな格好で、ユウの前に出られないよぅ」

今まで着たことはもちろん、目にすることもなかったような、純白のドレスだ。
リンズですら、ろくに着てこなかった朱夏にとって、このような格好は、ただ恥ずかしいばかりである。

「ご安心ください。よく似合っておりますよ。宮廷専属の衣装係が、朱夏姫様に似合うように、一から作ったのですから。さぁ、髪を上げてみましょうか」

セドナが朱夏を宥めつつ、大きな姿見の前に椅子を用意した。
髪を梳き、緩くまとめる。

「う~ん、どうしましょうかね。ああ、あの真珠の髪飾りを使いましょうか。お耳も揃いの黒真珠で。首飾りは・・・・・・どうしましょうか。首飾りを、竜のキャラバンで捜しましょうかね。指輪は結婚指輪が映えるように、何もしなくていいでしょう。腕輪の類も、もう少し増やしましょうかね」

全体を見ながら、セドナが言う。
このように着飾ったことのない朱夏は、当然のように装飾品のこともさっぱりだ。

朱夏は何気なく、いつもの癖で胸元を探った。
そして、あ、と声を上げる。

「守り刀、直ったかな。何か、あれがないと不安だわ」

鎖を引きちぎってしまったので、事件の後、憂杏に直してもらっていたのだ。
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