楽園の炎
「葵王との、お見合いってやつ?」

ちら、と隣に目をやると、ユウが身体ごとこちらを向いていた。
朱夏は視線を空に戻し、ため息をつく。

「知ってたんだ。ククルカンの人は、皆そのつもりで来たってことよね」

「そりゃあねぇ。まぁ・・・・・・今回の旅は、ナスル姫のお見合いだけが目的ではなくなったわけだけどね。そうそう、ナスル姫は? 葵王のお付きなら、会ったんじゃないか?」

意味深なことを言った後で、すぐにユウは話題を変えた。

「可愛いが、なかなかしっかりしてそうだから、合うんじゃないか? ま、俺は葵王を知らんから、何とも言えんが」

「まるで随分、姫と親しいみたいな物言いね」

少し棘のある言い方に、ユウは暗闇の中で、目を細めた。

「朱夏にとっては、面白くないかもな。葵王を取られるわけだし」

葵を取られる・・・・・・。
だから自分は、こんなにもやもやしているのだろうか。

確かにナスル姫と仲良くしている葵を見ていると、何だか胸がもやもやするが。
でも、腹が立つとか、そういうことではないのだ。

「うーん・・・・・・。どうなんだろう。ユウの言う気持ちっていうのは、嫉妬でしょ。そういうのとも、ちょっと違うのよ。そう・・・・・・まるで、大事に置いておいた苺が、一つなくなっていたって感じ。でもまだ何個かあるからいいや、みたいな」

考えた末に出た例えに、ユウは笑い声を上げた。
よっぽど面白かったのか、身体を曲げて、笑い転げる。
< 71 / 811 >

この作品をシェア

pagetop