楽園の炎
「葵も、違う国に来たのは初めてだし、この機会にみっちり世界を見ておいたほうがいいだろうな。何せ将来、アルファルドの王になる奴だ。皇帝陛下がいらっしゃるとはいえ、アルファルドはククルカンから離れてるし、属国らしからぬ属国だからな。王がしっかりしていないと、皇帝陛下にも迷惑がかかる」

憂杏が、ニオベ姫の皿の野菜を、一口大に切ってやりながら口を挟む。
そっかぁ、と朱夏は感心しながら果実水の杯を傾けた。

話が少し難しくなったらしく、ニオベ姫は憂杏が切ってくれた野菜をもぐもぐと食べながら、ちらちらと朱夏を窺っている。

「ニオベ姫は、葵王様がお好きなのよね」

ナスル姫が、籠に入ったパンを机に置きながら言った。
朱夏は、特に深く考えず、ああ、と相づちを打つ。

「葵って、異国の人にもてるのかしら。苺鈴さんにも何だか好かれてるみたいだし」

「あら、きっと朱夏が知らないだけよ。葵王様って、結構素敵よ。想いを寄せる女子は、多いと思うわ」

「そうなの? あたし、泣きべそのイメージが強いからかなぁ。葵をそういう対象として、全然考えられない」

「朱夏姫様の基準は、強さなんですかね」

ネイトが意外そうに言う。
それほど、傍から見たら葵というのは魅力的らしい。
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