楽園の炎
「神殿。式当日にしか行けないってのも、不安だろ?」

言いながら、夕星は、ほら、と前方を指差した。

「う~ん、よく見えないけど・・・・・・」

城の周りは明るいが、少し離れると結構な暗闇だ。
神殿は敷地内とはいえ、建物からは離れている。
今まで明るいところにいたこともあり、前方に目を凝らしても、闇が広がるばかりだ。

「ま、こんな時刻には、神官もいないしね。灯りは入ってないけど」

「え、怖いじゃない」

思わず、夕星の胸に引っ付いてしまう。
夕星は後ろから朱夏を抱きしめると、へら、と笑った。

「ふふ。そういう朱夏も可愛いねぇ。男心をそそるぜ」

「もぉっ! ただの肝試しなの?」

赤くなってじろりと睨むが、身体は貼り付いたままだ。

「大丈夫大丈夫。中は月明かりを取り入れるようになってるし、不思議と明るいんだぜ。小さい灯りぐらいなら、つけてもばれないだろ」

「もしかして、入っちゃ駄目なの?」

違う意味で、ちょっと不安になる。
昔はアルファルドの神殿で、いろいろやってきた朱夏だが、大人になれば神殿がどういうところかわかるし、あまり粗相をするのも憚られる。

祭典以外立ち入り禁止だとすれば、近くその神殿で式を挙げようという二人が、いらぬことをするのは避けるべきだ。

だが夕星は、別に気にした風もなく肩を竦める。
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