楽園の炎
がぁん、と朱夏は肩を落とした。
まさかこの夕星が、堅苦しい儀式をきちんと覚えているとは。

「なっ何でいっつもいい加減なのに、こういうのに限って完璧なのよっ」

ショックのあまり、失礼なことを口走る朱夏に、夕星は少し面食らった。

「おい。俺はいい加減じゃないぞ」

「あ、ごめん・・・・・・」

さすがにいい加減という言い方はないだろう。
素直に謝ったが、やはり釈然としない。

とにかく困った、と思っていると、夕星が、ぽんと頭に手を置いた。

「完璧というか。そりゃあねぇ、あんなもん、完璧に覚えてるのなんて、神官ぐらいだぜ。ようは、要領。大雑把に覚えて、それなりに見せれば良いのさ」

ぽかんとする朱夏に、念を押すように顔を近づける。

「これは、いい加減なんじゃない。要領が良いのさ」

「・・・・・・そうかもね」

本当にいい加減にしか覚えなかったら、それなりに見せることもできないだろう。
う~ん、と首を捻る朱夏の手を取り、夕星は回廊の端に寄った。

「きっと朱夏、式典の手順に四苦八苦してるだろうから、教えてあげようと思って。ほら、ここから出てくる」

夕星に手を引かれ、回廊を歩く。
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