楽園の炎
「っっ!!」

いきなり胸元に口付けされ、朱夏は飛び上がりそうになった。
守り刀は小さく細いため、どうしても素肌に唇が当たるのだ。

息を呑んだだけで、飛び上がるのは何とか堪えたが、守り刀が熱を持ったように熱くなる。

実際は、熱を持っているのは守り刀の下の素肌なのだろうが、だからこそ、朱夏は居並ぶ重臣たちから見える素肌が真っ赤になっているのではないかと、軽くパニックに陥った。

「この誓いを持って、ここに第三皇子・夕星と朱夏姫の婚姻を認める」

皇帝陛下が両手を掲げて宣言する。
式の最後に変な汗をかいていた朱夏は、ぐい、と夕星に引き寄せられ、やっと我に返った。

「ほんとはこのまま回廊を進んで、重臣らの祝福を受けながら町のほうの出口に向かうんだがな。今回は、もう一件あるから」

そう言って、少し脇に逸れると、さっきまで皇后の横に座っていたナスル姫が立ち上がった。
さらにその後ろのほうから、憂杏が姿を現す。

朱夏は少し目を見張った。
いつもの憂杏とは全く違う。
きっちりとしたククルカン式の正装に、髪もきちんと撫でつけている。

きちんとするのは当たり前なのだが、思っていたよりも随分しっくりと、服装にもこの場にも馴染んでいて、むしろそのことに驚いた。

憂杏とナスル姫が祭壇の前の皇帝の元に跪くと、皇后が後ろのほうで小さくなっていた桂枝を呼び、先程までナスル姫が座っていた自分の横に促した。

「息子さんの結婚式ですもの。わたくしはナスル様の母親代わりですし、立場は同じですよ」

恐縮しながらも、長々と上座で突っ立っているわけにもいかず、桂枝は結局皇后の横に座った。
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