楽園の炎
「な、何で? ただでさえ恥ずかしいのにっ」

「花嫁だもの。横乗りで、俺に頼っておいたほうが、見栄えが良いだろ」

「そ、そういう問題?」

「それだけじゃないけどね。一応、皇族になったんだから、ドレスで足を開くのはいただけないね」

ぐ、と押し黙った朱夏に笑いかけ、夕星は馬を歩かせた。
近衛隊が、後ろにぴたりとくっついてくる。
夕星と朱夏が進み出すと、また群衆が歓声を上げ、手に持った色とりどりの花を投げかける。

「夕星殿下! おめでとうございます!」

「殿下! 妃殿下! おめでとうございます!!」

歓声を上げる群衆の中を、夕星は笑顔で応えながら進んでいく。
朱夏はただ、あまりの周りの迫力に、夕星の腕の中で固まっているしかできない。

「ほら、民に応えてやれよ」

夕星に言われても、おろおろと視線を彷徨わせるだけだ。

笑顔で軽く応えている夕星を見ると、やはり皇子だなぁ、と感心してしまう。
いきなりこんな群衆の中に入っても、物怖じせずに対応できるのだ。

そこかしこに人が溢れ、花びらが舞う。
音楽が流れ、皆が舞い踊っている。
夕星の前に座っている朱夏の膝に、いくつもの花束が投げられる。

「おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

皆が皆、弾けるような笑顔で祝福してくれる。
やっと朱夏は、笑顔になった。
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