楽園の炎
---泣き虫のくせにさ。何一人で、一人前になっちゃってんのさ。こんな可愛い姫君と、縁組みまでしちゃて---

むかむかと焼き菓子を咀嚼していると、不意にナスル姫が、菓子を一つ摘んで口を開いた。

「でも、葵王様に、作って差し上げられたらな・・・・・・」

危うく菓子を喉に詰まらせそうになり、朱夏は慌ててお茶を喉に流し込んだ。
無事飲み込み、朱夏は、はあぁ、とため息をつく。

「ナスル姫様。姫は、葵の・・・・・・いえ、葵王のことが、そんなにお好きなのですか?」

これほど外見も内面も可愛い姫なら、それこそどこの大国の王族だって、選び放題ではないのか。
何といっても、彼女は大国ククルカンの、皇女なのだ。
何故こんな弱小国の、しかも属国の王子などに嫁ぐ必要があるのか。
いくらククルカン皇帝がアルファルド好きといっても、アルファルドを好きなのはククルカン皇帝であって、ナスル姫ではないはずだ。

「ま、朱夏・・・・・・。そんな直接的に、言わないでよ」

頬を赤く染め、ナスル姫は俯いてしまう。
そう言われても、朱夏は思ったことを遠回しに伝える細やかな手段など、持ち合わせていない。
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