楽園の炎
「朱夏お姉ちゃま、見て見て!」

てててっと朱夏の傍まで走り寄り、ニオベ姫は結い上げた髪を指す。
水色の花が、結び目に飾られている。

「あら可愛いですね。よくお似合いです」

「えへへ。あのね、これ、葵様がくださったのよ。お祭りに行ってきたから、お土産ですって」

ああ、そういえば、と、朱夏は町で花の屋台を物色していた葵を思い出した。

「お祭りに行くなら、わたくしも行きたかったなぁ」

ぷぅ、と膨れるニオベ姫に、朱夏は椅子を勧めながら頷いた。

「そうですね。葵も、お土産を考えるぐらいだったら、何でまず誘わなかったのかしら」

昔から、朱夏はアルファルドの市で何か催し物があるときは、必ず葵を引っ張って行っていた。
一緒に行ったほうが楽しいし、わざわざお土産を買う必要もないからだ。

だが炎駒は、当たり前だというように口を開いた。

「というか、朱夏は自分を基準にしないほうがいいぞ。葵王様もそうだが、ニオベ姫様は皇太子様のご息女だぞ。そのようなかたを、ほいほい町中に連れ歩くものではないのだからな」

「「どうして?」」

朱夏とニオベ姫の声が重なる。
炎駒の目が、僅かに見開かれた。

「・・・・・・ニオベ姫様がわからないのは仕方ないとしてもだな、朱夏、お前がわからないのは、いささか問題だぞ。育て方が悪かったのだろうか」
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