楽園の炎
「まぁまぁ。おかげで葵王様も、たくましくなられたのですから」

桂枝がフォローするも、炎駒は眉間に縦皺を刻んで唸る。

「炎駒様。朱夏お姉ちゃまは、素晴らしいかただわよ。あの怖いアリンダおじちゃまを、殴り倒したんでしょう?」

ぴょこんと身を乗り出して言うニオベ姫の目は、きらきらと輝いている。

「凄いわ! ネイトだって、あのおじちゃまにはそんなこと、できなかったのに。わたくしあのおじちゃま、怖かったから。お母様も苦手だったのよ」

ネイトがアリンダに手出しできなかったのは、腕どうこうではなく、立場的なものだろう。
だが幼いニオベ姫には、そんなことまではわからないようだ。

しかし幼いだけに敏感に、アリンダの纏う不穏な気を感じていたのかもしれない。

---こんな小さい子もわかるほどの気って、一体どんな邪悪な気なの・・・・・・---

考えると、ぞっとする。
ニオベ姫は、皇太子の第一皇女だし、直接はアリンダの中に巣くう母親絡みの恨みに関係はない。
故に、実際に何かされたということはないと思うのだが。

「ニオベ姫様は聡明でいらっしゃいますな。皇太子様も、ニオベ様のような娘がおられて、嬉しいでしょう」

「・・・・・・父上。あたしだと、嬉しくないんですか?」

本気で悲しくなり、朱夏は恨めしそうに炎駒を見る。
すると炎駒は慌てたように、手を顔の前でぶんぶんと振った。
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