楽園の炎
考えもしなかった。

だが、よく考えてみれば、葵の能力がそれなりであれば、十分考えられることなのだ。
ナスル姫との婚儀がお釈迦になっても、皇帝陛下の葵好きは変わらないし、身分だって皇太子に仕えるのに、何ら不都合はない。

「で、でも、葵はアルファルドの王太子だよ? 葵がいなくなったら、アルファルドはどうなるの? 葵は他に、兄弟はいないわ」

属国なのだから、本来王などいなくても良いのだが。
今まで王家というものと、がっつり付き合ってきた朱夏にとっては、王家がなくなるのは考えられない。

「アルファルドの王政は・・・・・・まぁ、終わりになるかもしれないな。ククルカンから誰かが治めに行くか・・・・・・。あ、それ、俺が立候補しようか」

良いことを思いついたように、ぽんと膝を打つ夕星に、朱夏は相変わらず、ぽかんとしたまま彼を見た。
ついていかない頭を懸命に動かし、朱夏は考えつつ口を開く。

「よくわからないけど。でも、アルファルド王にユウがなるのは・・・・・・つまらないと思うわ」

「あれ? 嬉しくないの? 祖国に帰れるんだぜ?」

意外そうに言う夕星に、朱夏は曖昧に笑った。
ククルカンのような大国の宰相と近衛隊長を兼任できるほどの夕星には、アルファルドのような小国、おもちゃみたいなものだ。
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