だってキミが可愛すぎて
「い……加減にして。
久しぶりだからって冗談きつすぎるよ」
出来る限り深く眉間にしわを寄せて彼を見上げる。
「冗談やあらへんよ。
可愛い子抱きたい思うんは、男として自然の摂理やん」
思わず目を見開く。
ポカンと口を開いた私とは対照的に、彼の口元には笑みが浮かんでいて、表情はこれっぽっちも変わらない。
……もう、やだ。
彼が全然分からない。
どんな気持ちでそんなこと言ってるんだろう。
からかってるの?
それとも本気で言ってるの?
ぐるぐると頭の中に渦巻く疑問の隙間から、昔の記憶がチラリと覗いた。
……今まで、彼が私に本当のことを言ったことがあった?
即答出来る。
無い。
昔から掴み所が全く無くて、気付いた時にはいなくなってる。
大事なことはその胡散臭い笑顔の下に隠して、自分の領域には決して誰も踏み込ませない。
そういう男。
だから今のは、多分ただの気まぐれだ。
気が変わったら、きっとまた1人でどこかに消えてしまうんだ。
だから、この人の言葉なんて真に受けちゃちゃいけない。
そう結論付けた。
なのに、あの甘すぎる声が、耳の奥にいつまでも響いている。
あの嘘臭い「可愛い」に、嬉しいと思ってしまった自分に腹が立つ。