だってキミが可愛すぎて
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彼女が部屋に入ってきた瞬間、その目がぎょっと見開かれた。
黒く大きな瞳が、「どういうこと?」と言わんばかりに揺れる。
驚いてる、驚いてる。
毎度毎度、期待通りの反応してくれるわァ。
「おー、おかえり」
にっこり笑ってそう言えば、彼女はハッと我に返って、キッとボクを睨み付ける。
「……なんでいるの?」
久しぶりの再会やのに、第一声がそんなツレない言葉。
やっぱり、なんも言わずに引っ越したこと怒っとるん?
「なんで?
いたらあかんの?」
「だってここ私の部屋なんだけど」
「ええやん」
「私はヤ」
ぷいっと顔を背けた彼女の耳は、その冷たい態度とは裏腹に真っ赤で……。
そんなん見せられたら、ボク、嬉しなってまうやん。
「だってなァ、今日うち誰もおらへんねん。
ボク、寂しゅーて寂しゅーて……」
今日、実家に誰もおらへんのは本当。
でも、だからといって寂しいてのは真っ赤な嘘で、これはキミの部屋に上がるための口実。
「……普段は1人暮らしのくせに」
目も合わせずに、ボソッとそんな可愛い皮肉を呟く彼女。
「なんでなにも言わないで行っちゃったの?」、華奢な後ろ姿がそう言っている。
そんなん決まっとるやん。
キミを悲しませたかったからやで?