あの頃の夢
「間に合ったかな?」

講堂の明かりは
まだ落ちていなかった。

「最前列だよ」

委員長はポケットから
チケットを取り出して、
最前列中央の席を指差した。

チケットには
何も書かれていないけれど、
どの席に座るのかは
決まっているのだろうか。

最前列はすでに満席状態だったのに、
示されたその二つの席だけが、
何かを避けるように
ポッカリと空いていた。

舞台のすぐ下から振り返る客席は、
全ての人がこちらを向いているようで、
思わず圧倒されてしまう。

舞台の下からでも
これだけの威圧感があるのに、
舞台の上で演じる役者たちは、
どれだけの度胸を携えているのだろう。

ぼくは委員長が席に座るタイミングに合わせて、
自分も席に腰を下ろした。

最前列中央の席。

視界の全体に
舞台を覆う幕が広がる。

そのとき、講堂を照らす
オレンジ色の明かりが
静かに落とされた。
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