まどろみの淵にて~執事ヒューマノイドの失われた記憶~
不自由なことに、私はどうやら自分の意思でその体を動かすことができないようである。以前にもこんな体験をしたことがあると気が付き、しばらくあって、これは誰かの記憶の中ではないかと思い至った。
(それは、私の人格プログラムの元になった人の記憶かも知れないし、もしくは忘れてしまっていた私の記憶かもしれない。そこの区別をつけることは全くもって難しい)
視線を上げたときに、そこが廊下の片隅であることが分かった。視線の先には幾人かの老人がいて、こちらからあちらへ、あちらからこちらへという風に、それぞれが思い思いの方向へ割合と確かな足取りで歩いている。