まどろみの淵にて~執事ヒューマノイドの失われた記憶~
医師の視線の先には、老婆がいた。そういえば、あの青い半纏(はんてん)には見覚えがある。先ほど一度、私の目の前を通ったはずだ。
思い返してみると、ここで歩き回っている老人たちはみな、何度か私の目の前を通り過ぎている。どうやらここは、回廊になっているらしい。
「徘徊に加えて、ご自分が誰だか分からなくなる事が多くなってきています。それに伴い、不安感が大きくなっていますので、心を落ち着けるお薬を少し増やして処方しています」