二世
「わぁ‐!」
隣を歩いていた佐和子は足を止めて、空を見上げていた。
つられて那佳も見上げてみれば、街中にも関わらず沢山の星を見ることが出来た。
冬の冷えて澄んだ空気は、雲一つない星空をより一層輝かせて見せていた。
「キレイだね‐!」
「うん、凄いね…」
「こうやって空見たの久しぶりな気がする。」
「うん、私も久しぶりだよ。」
「前はよく一緒に見てたよね!」
視線を那佳に戻してにこりっと笑う佐和子。
笑い返しながら那佳は子供の頃を思い出していた。
遊びに行く時はいつも手を繋いでいたこと、空が好きでいつも一緒に見上げていたり、雲の形に笑うこともあった。
お泊り会をする時は夜更かしして月を見にこっそり家を抜け出した時もあった。
「ねぇ、久々に手繋いで帰らない?」
「うん。」
もしかして同じことを考えていたのかな、と那佳は小さく笑い、差し出された佐和子の手をぎゅっと握った。
「ねぇ、何で笑ってるの?」
「ふふふ、秘密だよ。」
「え‐!やだ、教えて!」
「だ‐め。秘密は秘密。」
頬を膨らます佐和子に、ますます笑いが起こる那佳。
アルコールのせいだろうか…。
テンションも高くなり、子供に戻ったような気持ちになりながら、笑いながらゆっくりと歩く。
平穏で平凡な人生を歩んできた。
この先も変わることがないと思っていた20歳の冬。
那佳と佐和子の生活は、この夜を境に一変してしまうことを、この時はまだ知らなかった。