Hello my sheep
人の出払った廊下を行き、階段に差し掛かったところで目下の踊り場にようやく人影を見つける。
一人の男子生徒と、すぐに階下から現れてその隣に並んだ少女。
まだ幼さの残る少女は、少し明るい色味の髪を左右で結び、ほっとしたような顔をしている。
並ぶ少年の方は長身痩躯をけだるげに曲げ、ウェーブのかかった黒髪の下にある顔は彫りが深く大人びていて、一年生には見えない。
丁度顔を上げたその少年の鋭い灰色の瞳に捕まったかのように、八鹿はほんのわずか階段を前に足を止めた。
「なんでこーゆー日遅刻しそーになんだよ!ほらちゃんと上着着ろって!」
「わかってんよ悪かったって言ってんだろっあ…っ」
「ぅあ…っ」
「え…」
視界の端に、呆気にとられる奈緒の顔が一瞬見える。
身体が宙に浮いている。
目下の少年は隣にいた少女を雑に突き放すともう一度落ちて来る八鹿を見据えた。
それが視界に入らない八鹿は、すぐ後に来るであろう衝撃にぎゅっと目をつぶった。
が、数瞬後にきた衝撃は、八鹿が想像したよりずっと軽いものだった。
「………てェ」
「えっ!ウソッ八鹿っ!?」
気が付くと、ついさっき目下にあった顔が、八鹿が顔を上げたすぐ近くにあった。
後方で我に返ったように驚く奈緒の声が聞こえる。
非常に整った顔だが、その顔立ちは険しさを含んでいる。
目つきが悪いのかもしれない。
そんな事をふと考えた八鹿だったが、すぐに彼がクッションとなって自分が無事でいることに気付き声をかける。
「ごめんなさい。だいじょーぶですか?」
覗きこんだ瞳はコンタクトなどではないらしい。
端正な顔立ちを痛みにゆがませていた少年は、八鹿と目が合うと初めてちゃんと認識したかのように焦点を合わせた。
一人の男子生徒と、すぐに階下から現れてその隣に並んだ少女。
まだ幼さの残る少女は、少し明るい色味の髪を左右で結び、ほっとしたような顔をしている。
並ぶ少年の方は長身痩躯をけだるげに曲げ、ウェーブのかかった黒髪の下にある顔は彫りが深く大人びていて、一年生には見えない。
丁度顔を上げたその少年の鋭い灰色の瞳に捕まったかのように、八鹿はほんのわずか階段を前に足を止めた。
「なんでこーゆー日遅刻しそーになんだよ!ほらちゃんと上着着ろって!」
「わかってんよ悪かったって言ってんだろっあ…っ」
「ぅあ…っ」
「え…」
視界の端に、呆気にとられる奈緒の顔が一瞬見える。
身体が宙に浮いている。
目下の少年は隣にいた少女を雑に突き放すともう一度落ちて来る八鹿を見据えた。
それが視界に入らない八鹿は、すぐ後に来るであろう衝撃にぎゅっと目をつぶった。
が、数瞬後にきた衝撃は、八鹿が想像したよりずっと軽いものだった。
「………てェ」
「えっ!ウソッ八鹿っ!?」
気が付くと、ついさっき目下にあった顔が、八鹿が顔を上げたすぐ近くにあった。
後方で我に返ったように驚く奈緒の声が聞こえる。
非常に整った顔だが、その顔立ちは険しさを含んでいる。
目つきが悪いのかもしれない。
そんな事をふと考えた八鹿だったが、すぐに彼がクッションとなって自分が無事でいることに気付き声をかける。
「ごめんなさい。だいじょーぶですか?」
覗きこんだ瞳はコンタクトなどではないらしい。
端正な顔立ちを痛みにゆがませていた少年は、八鹿と目が合うと初めてちゃんと認識したかのように焦点を合わせた。