さよなら
3.彼女と僕
卒業式も近くなった頃、式で歌う歌の伴奏者に選ばれた僕は練習に励んでいた。
だけど、ピアノの練習はいつも朝少しくらいして、後はもっぱらバイオリンの練習をしていた。
僕、華原慧(かはら けい)は今年留学の試験を受けている。
書類、学力審査が通って、後は実技審査だ。
小さい頃から頑張っていたバイオリン。
あんなに大好きで弾いていたのに、いつのまにかその心を忘れてしまったのか。
受からなければ後がない。
切羽つまっていたからなのかな、先生には「心がない」と言われてしまった。
受験が近づいていた頃に言われて、どうしていいかわからず途方にくれていたときだった。
そんな僕の前に彼女は現れた。
「綺麗な音がしたから!」
「あたしは好きです!!」
初対面の僕に、彼女は頬を真っ赤にしながら言うんだ。
でも、その言葉がどんなに嬉しかったか彼女は知らないんだろうな。
まるで僕にとっては、一筋の光のようだった。
彼女は、毎日僕のところにきて僕の音色を聞いてくれる。
最近は、曲を覚えたらしく小さな声でメロディーを口ずさんでいる。
「慧先輩♪」
いつも笑顔でやってくる君。
君のために弾きたいと思った。
弾くことの楽しさを感じさせてくれたのは、君だよ。
ゆうちゃん。
君に会えてよかった。