さよなら

3.彼女と僕


卒業式も近くなった頃、式で歌う歌の伴奏者に選ばれた僕は練習に励んでいた。

だけど、ピアノの練習はいつも朝少しくらいして、後はもっぱらバイオリンの練習をしていた。

僕、華原慧(かはら けい)は今年留学の試験を受けている。

書類、学力審査が通って、後は実技審査だ。

小さい頃から頑張っていたバイオリン。

あんなに大好きで弾いていたのに、いつのまにかその心を忘れてしまったのか。

受からなければ後がない。

切羽つまっていたからなのかな、先生には「心がない」と言われてしまった。

受験が近づいていた頃に言われて、どうしていいかわからず途方にくれていたときだった。


そんな僕の前に彼女は現れた。


「綺麗な音がしたから!」

「あたしは好きです!!」



初対面の僕に、彼女は頬を真っ赤にしながら言うんだ。

でも、その言葉がどんなに嬉しかったか彼女は知らないんだろうな。


まるで僕にとっては、一筋の光のようだった。

彼女は、毎日僕のところにきて僕の音色を聞いてくれる。

最近は、曲を覚えたらしく小さな声でメロディーを口ずさんでいる。


「慧先輩♪」


いつも笑顔でやってくる君。


君のために弾きたいと思った。


弾くことの楽しさを感じさせてくれたのは、君だよ。


ゆうちゃん。


君に会えてよかった。
< 15 / 29 >

この作品をシェア

pagetop