さよなら

「せーんぱいっ♪来ちゃった!」


…ゆうちゃん?!

このときは、ほんとにビックリした。

バレたくはない。

いじめられてるなんて知られたくはない。

心配をかけたくない。

この一心だった。



「えっ…」

「ゆうちゃん、どうしたの?お昼休みにくるなんてめずらしいね。」


動揺を悟られたくなくて必死に、声を落ち着かせて学ランを羽織った。

だけど、ゆうちゃんの顔はいつもの笑顔には戻ってくれなかった。

落ち着け。

落ち着くんだ。

隠し通せる。



「慧せんぱっ「ゆうちゃん!!」


今日は報告がある。

きっと、喜んでくれる。

そんな怯えたような顔をしないで、泣きそうな顔しないで。

僕はいつも君に笑っていてほしいのだから。



「聞いて♪ゆうちゃんに報告があるんだ!」


バイオリンをケースにしまいながらピアノ用のいすに腰掛けた。

手招きをして、ゆうちゃんを近くに呼ぶ。


「なんですか?」


僕も笑顔になれば、ゆうちゃんも笑ってくれるかな?

あっ…笑ってくれた。

それだけで僕の心はホッとするんだよ。


「この前、留学の試験の話したじゃん?」

「はい、確か一次の結果待ちなんですよね?」

「そう、それに受かったんだ♪」

「えっ?まじですか?!」



昨日の夕方、合格通知がきた。

一番に報告したいと思ったのは、ゆうちゃんだった。

あぁ~連絡先聞いとけばよかったなんて、昨日の夜思ったんだよね。


「うん♪」

「明後日の土曜二次で、それに受かれば留学できる。」


「すっ…すごい」


「ゆうちゃんに一番に報告したくてさ、まだ先生には言ってないんだよ。」


「慧先輩っ…おめでとうございますっ…」


言い終える前から、ゆうちゃんの目に涙が滲んでいた。

嘘…

ゆうちゃん、泣いてるの?

僕のために?


泣いてくれてるの…?
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