さよなら

自分の気持ちに気づいてしまってからは、なんだ気恥ずかしくて…

でも、この気持ちを気づかれたくなくて必死に隠した。


「先輩、今日はバイオリンの練習しないの?」

「ん~卒業式が近いからね。ピアノの練習もしなくちゃね。」

「そっかぁ…あと少しで先輩も卒業しちゃうんだね」

「そうだね。…さみしい?」


冗談っぽく笑いまじりに聞いてみた。

きっと、いつもみたいに「そんなことないですよー」って生意気に返してくるんだろうなって思った。


なのにさ、君のこのときの表情、言葉。

余計君に惹かれてしまったんだよ。




「寂しいです。」


「えっ…」


「…寂しいです。」





掠れたような小さな声が、震えながらも芯のある声に変わった。

目は潤みながらも、まっすぐ僕を見つめていた。

いつも見せる子供っぽい彼女じゃなくて、

まるで一人の女の人。

そんな印象を受けた。

すぐに恥ずかしそうにそっぽを向いてしまったけれど…




「先輩、あの曲弾いてください♪卒業までにいっぱい聞きたいんです!」


「今日はピアノの練習だって言っただろ~?」


「てか先輩明日試験でしょ?大丈夫なんですか?課題曲あるんでしょ?」


「…大丈夫。前日焦って練習したってしょうがないでしょ。」


「そうだけど…」




ニコニコ笑ったり、心配そうな顔したり、いじけたり、怒ったり、泣いたり、


いろんな表情を見せてくれる君。

どんな君も大好きだよ。



 ・
 ・
 ・


「じゃ、そろそろ帰ろうか?」

「はい!」



校門の前でゆうちゃんと別れた。

ほんとは、送っていきたいけどアイツらに見られて、ゆうちゃんにまで何かされたら嫌なんだ。




だから、音楽室での時間はとっても特別な時間。

大切で、とっても愛しい時間。







「かーはらくん♪」


「ッ!」
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