こちら新宿中央署刑事課
 ――分かってる。あんまし無理するなよ。


「ああ」


 坂野はそう言って、椅子の背凭(もた)れに掛けていたスーツを羽織り、藤野と一緒に刑事課フロアを出る。


 新宿中央署は地下二階に鑑識係があるのだ。


 通常、坂野はエレベーターなどを使わずに階段で上り下りしていた。


 少しでも運動不足を解消するためだ。


 署三階にある刑事課からは幾分遠いのだが……。


 だが、一刻も早く照合された指紋を見たかった。


 永嶋雄一朗偽装自殺事件に、共犯者がいたというのは紛れもなく新たな事実だったので……。


 藤野もフットワークが軽い。


 この男とはいつも署付属の射撃訓練場で一緒で、馴染みがあるのだが……。
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