こちら新宿中央署刑事課
 坂野がそう言い、河北に部屋着ではなく外出着に着替えるよう促した。


 洗面を済ませて、付けっぱなしだったパソコンの電源を落としてしまってから、外出の際の格好に着替え、河北は財布やケータイ、カード類などを持って部屋を出る。


 坂野が、


「これはあくまで任同(にんどう)です。参考人の一人になっていただくだけなので、ご安心ください」


 と言って、連れていく。


 近くに停めてあった覆面パトカーに乗せ、自分は運転席に回った。


 そしてエンジンを掛け、アクセルを踏み込む。


 ここから新宿中央署まで一般道を走って十分程度だった。


 坂野がじっと前を見据える。


 助手席の河北は何か怯えているようだ。


 やはり会社の機密が司直に知られてしまい、前島社長や他に社にいる人間たちを裏切ってしまったのが一番重たいことなのだろう。


 だが悪事は悪事である。
< 119 / 144 >

この作品をシェア

pagetop