こちら新宿中央署刑事課
 しかも銃を使って自分の頭を撃ち抜き、自殺を図ったのだから、もはや破滅からは免れないと思っていたのだろう。


 全てはあの悪漢の仕業だろうと思われた。


 永嶋雄一朗を古河村や内多の手によって巧妙に自殺に見せかけて殺害し、岩沼孝一を綾坂恵作によってひき逃げさせ、そして一方では他社の株式を時間外取引で大量取得し、株式を買収した相手方を子会社化した。


 この悪事全部が恒世の起こしたものだとすれば、事件全てに関して合理的説明が付く。


 つまり最初から出来レースだったわけである。


 チェスのコマでも操るかのように、恒世が全ての事態を想定し、極めて計画的に仕組んだものと考えられた。


 三月の下旬、新年度の人事問題で何かと頭の痛い本庁内では、今回の前島恒世の企てた事件に関して捜査会議が続けられている。


 当然、所轄はそれから外されていた。


 数日後、新宿区内に潜伏していた綾坂恵作を所轄の署員が取り押さえ、逮捕状なしの状態で任同する。


 事情聴取したところ、綾坂が岩沼孝一ひき逃げに関し、容疑を認めたので、正式に逮捕
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