こちら新宿中央署刑事課
 だが現時点で聞くところによると、人当たりのよかった永嶋が殺害されるだけの動機が見つからない。


 おそらく社内もしくは社と取引のある別会社の人間の中に、永嶋を妬(ねた)む者がいたことも考えられる。


 その手合いの人間があの夜、あえて屋上でも鍵が開いている午後八時前に永嶋を刺し殺し、遺体を屋上から落としたと考えるのが自然だろう。


 落下した遺体の傍にあったカバンは口が空いたままだった。


 普通、物取りだったらカバンごと持っていくだろう。


 金品等が目立って取られていなかったことから見るに、坂野にも藤野にもホシが一体どういった経緯で永嶋殺しを企(たくら)み、実行したのか、意図や理由がまるで分からない。


 事件発生から徐々に時間が経っていく。


 証拠はどんどん古びていくだけだ。


 坂野は連日、藤野と一緒に、現場の真向かいに位置するビルの屋上へと向かった。


 そして事件発生時の一月三日の夜からちょうど一週間が経つ。


 一月十日の昼間も東京の街は冷え込んでいた。
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