こちら新宿中央署刑事課
「だが、あくまで推測の段階だ。物証が出るまではヤツらは単なる容疑者に過ぎない」


「私もそう思ってます。一刻も早く、害者の腹部を刺す際に使った凶器を見つけ出さないといけませんね」


「ああ。俺もそう思ってる」


 坂野が頷き、出勤早々喫煙コーナーへと向かう。


 そしてタバコ入れから長年愛吸(あいきゅう)しているピースを取り出し、銜え込んでジッポで火を点(つ)けて吸い始めた。


 煙が上がり出して、先端がメラメラと燃え始める。


 値上がりはしていたのだが、やはりニコチンは欠かせない。


 坂野はゆっくりと燻(くゆ)らせながら、吸い続ける。


 そしてふっと思った。


「なぜ永嶋雄一朗は仕事納めした後まで、残業して働き続けていたのか?」と。


 普通だと、年末は会社自体が閉まってしまう。


 それなのに害者はまるで働き蜂のように大晦日まで働き続けていた。
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