こちら新宿中央署刑事課
業を興(おこ)したらしい。


 ちょうど今から四十年ちょっと前で、日本全体が戦争という言葉を忘れ掛けていた頃だ。


 前島は日本が右肩上がりの時代に生きた人間で、金遣いは荒い方だった。


 もちろん起業家として会社を興すエネルギーは十分にあったようだが、社員たちとは何度も離散している。


「社の方針に付いていけない」というのが辞めていった人間たちの吐く言葉で、前島は側近たちも数人代わっていた。


 前島が一番恩義を感じている古渡(ふるわたり)純平という社員が子飼いで、今は都内の特養にいる。


 もう七十代で、完全に実業の世界からは引退していた。


 坂野はさすがにそういったことを複数の社員から聞いているうちに、


“前島恒世も苦労人だな”


 と思える。


 今も社長職で、まだ引退していない。


 それに来る株主総会のことに関して、殺害された永嶋とは絶えず連絡を取り続けていた
< 21 / 144 >

この作品をシェア

pagetop