こちら新宿中央署刑事課
 坂野が受話器を取ると、小笠原が電話先で、


「サカさん、カバンを鑑定した結果、あれからは古河村と内多の指紋に加えて、もう一人の人物の指紋が検出された」


 と言う。


 ――もう一人の人物?……誰?


「石松貴朗(たかろう)。都内在住で、二年前の二〇〇九年三月に前島実業を退社してた人間だ」


 ――石松貴朗か……聞き覚えのない名前だな。


「石松は平社員で、殺害された永嶋雄一朗の部下だったんだ」


 ――なぜ、石松が害者の殺害に関与してたのかな?


「何でも、刑事課の察しのいいデカさんたちによれば、石松は永嶋と対立してたらしい。主に自社株の管理のことで揉めてたり、営業方針の違いで割れてたみたいなんだ」


 ――つまり石松は落下した永嶋のバッグから何かを盗み出す際に、手を付けたって事か?


「ああ。現時点ではそれが一番考えやすいね」


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