こちら新宿中央署刑事課
 と言って、内線電話を上にある刑事課へと繋ぐ。


 十分ほどメインエントランスで待ち続けていると、粕屋が出てきて、


「ああ、坂野巡査部長。わざわざすみません」


 と言い、一瞬笑顔を見せた。


「例の岩沼専務ひき逃げの件で、タイヤ痕が科捜研によって特定され、事件の全貌が見え始めたのはいいことだね」


「ええ。坂野さんもそうお思いでしょう?」


「ああ。ただし、まだ縛(しば)りがある」


「縛り……とは?」


「綾坂恵作を現段階で立件することは不可能に近い。第一、単にひき逃げに使った車両のタイヤ痕が綾坂の車と認定されただけだ。それだけでヤツを引っ張れるはずがない」


「しかし、実際に事件は事件ですから」


「君ね、自動車もしくはトラックなどによるひき逃げ事件って、都内で一日に何十件って起こってるんだよ。警察のその手の部署のデカだって慣れてる。それに俺は都内では一番大きな管轄区内を常に見て回ってる。単に綾坂が乗ってた車が岩沼をひき逃げする際に使
< 46 / 144 >

この作品をシェア

pagetop