こちら新宿中央署刑事課
 全ては自社を守り抜くためなのだ。


 時間外取引という、薄汚く悪質な手口を使ってまで、恒世は他社の株式を取得し、相手方を乗っ取る作戦も敷いていたのだし……。


 これは確かにビジネス界において極めて戦略的なことだ。


 とても賢いやり方なのだから。


 ところが金融庁は恒世の企みを見抜いていた。


 他社の株式を取得する前に、前島実業内に潜在していた株式は額が少なく、今現在所有しているそれのほとんどは他社から悪質な手口を使って得たもので、金融に関してプロ中のプロで通っている金融庁の監査人は、恒世の不正蓄財の事実を知っていたのだ。


 恒世が他社に対し仕掛けたTOBと、それに伴うM&Aは、失速する可能性が極めて高い。


 それは金融監査に長けた人間なら、誰もが分かることである。


 近年企業犯罪が増えつつあって、金融庁の人間たちも絶えず目を光らせていた。


 出番が多くなってきているからだ。


 一方で坂野たち警察官は、次に誰が殺害されるのかばかりが気になっていた。
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