こちら新宿中央署刑事課
 一番地団太(じだんだ)を踏んでいたのは、本庁から流れてきた栗川警視正だ。


 当初、事件は単なる殺しで、政治や金融などの複雑な物事が絡んでいないことが前提だったのだから……。


 そして意想外な展開が巻き起こる。


 二月下旬、新宿中央署にある男が丸腰で出頭してきた。


 そう、あの永嶋殺しのマル被である古河村比呂氏だ。


 古河村は殺人容疑で即逮捕され、警察の取調べを受けた。


 古河村自身、取調べの中で言っている。


「前島社長は悪くありません。無実です」と。


 取調べを担当していた刑事課巡査部長の松井が、


「じゃあ、前島とあなたと内多桂三の三者間に共謀共同正犯は成立しないのですね?」


 と問うと、古河村が、


「ええ。共同正犯なんてとんでもありません。社長が悪事に手を染めることなど、考えられませんし」

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